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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
七
「しかし山霊というのはどういうわけだ」
休之助はたたみかけて訊いた。
七
老人はなにかを怖れるように、声をひそめて答えた。
「それは、たった一人だけ生きて帰った者が見たというのです」
「山霊を見たって、――」
「それは真壁という村の、弥助という百姓の伜でしたが、七人の仲間といっしょに、ちょうど夜なかの八つ刻(二時)ごろ、――弁天谷を登っていったのだそうです」
妖しい声はときをおいて、谷の奥から聞えて来た。星もない闇夜であるが、かれらは狼かなにかのけもの(血気の連中だから化物だとでも思っていたらしい)を退治するつもりなので、松明は持っていたが、火はつけてなかった。約三町ばかり登ると、昔そこに弁天堂のあったという、平たい空地がある。いまは雑草と灌木が生えているばかりだが、そこへ来たとき、突然、闇の中から怪しいものがかれらに襲いかかった。
数はこちらの倍くらいいた。
全身がまっ黒で、人か怪物かわからない。ぞっとするような奇声をあげて襲いかかり、弥助はたちまち気絶してしまった。
彼は脾腹を打たれたらしい。どのくらい経ってからか気がついてみると、闇の中に自分だけ倒れていた。