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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
要害山
一
要害山
一
日が昏れかかっていた。
甲府の城下町まで一里何町という、坂折村のはずれを一挺の駕籠が右へ折れた。
そこは田に挾まれた村道で、向うに古い神社の森があり、周囲は青々と麦の伸びた畑や、林や、土を耡き返した田などが続き、遠く土を打っている農夫の姿が、二三見えるほかには、家らしいものも眼につかなかった。
駕籠かき人足は、けいきのいい掛け声をあげながら、神社の境内へ入ってゆき、古びた小さな社殿のうしろへまわって、そこへ駕籠をおろした。
「やれやれ、骨を折ったぞ」
「百里もとばした馬のようだぜ、あにい、この汗を見てくれ」
「まず一服とするか」
二人は草の上へどっかと、腰をおろした。
片方は三十がらみ、片方は二十六七であろう。どちらも人相のよくない男である、三十がらみの人足は髭だらけの頬に大きな傷痕があり、そこだけ髭を剃ったようにみえる。若いほうは動物的な、魯鈍と狡猾の混りあった肉の厚い無表情な顔で、鼻がぺしゃんと潰れていた。
年上のほうが莨入と燧袋を出し、なたまめきせるでゆうゆうと一服つけた。
「なん年稼いでも下り坂の駕籠は骨が折れていけねえ」
「おらあ腰の骨が外れそうだぜ」