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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

六

「あら道が違いますわ」

女がふと万三郎の袖に手をかけた。そこは露月町の裏通りで、彼は芝口のほうへ曲ろうとしたところであった。

「この向うにゆきつけの家がございますの、珍しい精進料理とお酒の良いので評判ですわ」

「いっしょに来いというんですか」

「ええぜひ――」

「私はこの恰好ですよ」

「御人品は隠せませんわ」

こう云って、女はうしろへ振返った。

六

振返った女のそぶりが、なにか意味ありげだったので、万三郎もふとそっちを見た。すると、いつどこから跟けて来たものか、三人の屈強な侍がそこにいた。

他の二人は若いが、まん中にいる一人は三十がらみの眼のするどい、ひどく険相な男で、腰には殆んど無反のずぬけて長い刀を差していた。

万三郎はどきっとした。

三人の跟けて来たことに驚いたばかりでなく、その険相な男を見たとたん、どきっと胸を打たれたのであった。

――見たことがあるぞ。

彼はその男の眼を見た。その男は石のように冷たい無表情な顔で、嘲るようにこっちを見返していた。

「なるほど、そうですか」

万三郎は女に頷いた。

「腕ずくでもご馳走をして下さろうというわけですな」

「まさかいやだとは仰しゃいませんでしょう」