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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
二
拾い屋姿のときに発見されて、女の眼のするどさに懲りている。こんどもすぐ気づかれるのではないかと思うと、早速もう腋の下に汗が出てきた。なるべく眼につかないように、頭を下げてすれ違おうとしたが、そのとき「大めし」の店の中から、下男の虎造が首を出して喚いた。
「おい炭屋のあにい、寄ってゆかねえのか」
二
――しまった。
万三郎は笠の下で眼をあげた。
「寄ってゆけよ炭屋」
虎造がまたどなった。
かよはこっちを見た。すると虎造も彼女をみつけ、へらへら笑いながら、なにか話しかけるつもりらしく、店の中から表へ出て来た。いよいよ困ったと思ったが、それが幸いになったのである。
「へへへ、江戸のお嬢さん」
虎造がそう云うより先に、かよは脇へ向いて、返辞もしずにさっさとそこを通り過ぎていった。虎造は舌打ちをしたが、万三郎はほっと太息をつき、店の軒下へ荷をおろした。
「いまのは虎さんの知合いかね」
「屋敷へ来ている客よ」
「長い滞在かえ」
「なに来たばかりだが、――おらあおめえのことを待ってたんだぜ」
二人は店の中へ入り、飯台に並んで腰を掛けた。午飯の時刻は過ぎたので、ほかには客はなかった。