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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

八

それと同時に、激しい怒りと闘志とが、躯の内部から燃えあがるのも感じた。

声の聞えるのは十番の土蔵であった。その二階の小窓の隙から、よく見るとかすかに灯が洩れている。彼は扉口に近寄った。観音開きには錠が掛っていない、彼は極めて静かに片方の扉をあけてみた。扉の内側は土間で、普通の倉座敷のように、上り框があり杉戸が閉っていた。

謡の声はこんどははっきりと上から聞えて来た。

万三郎は観音開きを閉め、蓑と笠をそこへぬいで、静かに杉戸をひきあけた。

八

杉戸をあけると、そこは六帖ばかりの座敷で、暗くしてある行燈の脇に、夜具をのべて寝ている老女の姿が見えた。

雪の草鞋のままあがり、音のしないように杉戸を閉めた。音はしなかったようだが、老女がふっと眼をさました。

二人の眼が合った。

老女は身動きもしなかった。黙って、じっとこっちを見ていた。万三郎は迷った。

――どうしよう。

手荒なことは避けたい。が、いかにも時間がなかった。彼は低い声で云った。

「起きて下さい、お気の毒だが少し辛抱してもらいます」

「つなさまを助けにいらしったのですね」

老女の声は平静であった。

「そうだ」