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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
九
そんな質問をされようとは思いもよらなかったのである。彼はつなの手を取って叫んだ。
「そんな話はあとのことです、さあ早く逃げましょう、ひとりで歩けますか」
「ええ大丈夫です」
階下へおりてみると、老女は柱に凭れたまま、じっとこちらを見ていた。つなはなにか云おうとしたが、万三郎は押しやるようにして、手早く彼女に蓑と笠を衣せた。
「このままでゆきます」
彼が履物を捜そうとすると、つなはもう土間へおりていた。
「足袋をはいておりますから、これで充分でございます」
「では辛抱して下さい」
万三郎は観音開きをあけて外をうかがった。戸外にはやはり吹雪が舞っているばかりで、変ったようすはなかった。
二人は土蔵を出た。
万三郎は観音開きを閉め、吹雪からつなを庇うように、先に立って走りだした。すると約三四十歩ほど走ったとき、なにかに躓いて、危なく倒れそうになった。
そこは六番倉の前であった。
そうして、彼が躓いたのは、鳴子の綱であったらしい。とたんに前後左右で、からんからんとけたたましく非常に高い金属性の音が鳴り響いた。
「鳴子です、――」
つなが云った。万三郎は黙ったまま、彼女の手を取って走った。