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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

四

「そうですとも、だから私は」

「いいえお待ち下さい、あの晩のことはそうだとしてもわたくし、ほかにもっといろいろなことを知っておりますのよ」

「ほかにいろいろって」

万三郎は不安そうな眼をした。

「ほかにはべつになんにもない筈ですがね」

「増上寺の山内に、和幸といういかがわしい茶屋があるそうでございますね」

「はあ、それはあれです」

「御存じでございましょう」

つなは足を停めて彼を見た。

四

万三郎はどきりとした。

つなは立停ったまま、じっと彼の表情をみつめた。いかなる嘘も見逃しはしないぞ、とでもいうような視線であった。

「その茶屋を御存じでございましょう、万三郎さま」

「ええ、それは知っていることは知っていますが」

「あの人とごいっしょにいらしって、お二人だけで、仲良くお酒を召上ったそうでございますわね」

「それは誤解です、それはそうではないんで、それにはわけがあるんで、つまりそれは私がですね、つなさんの居どころを捜すために」

「わたくしを捜すためですって」

「むろんですよ」

彼はのぼせあがってきた。するとつなは刺すように云った。

「あの晩もわたくしを助けに来て下すったし、和幸のときもわたくしを捜すためだったと仰しゃいますの、はあ、ずいぶんたびたび同じようなことがございましたのね」