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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
万三郎が観音谷へ着いたのは夜の九時ころで、その夜は火薬の所在を捜すつもりであった。いちど伝次と共に丸太小屋へ入り、すぐに(例の如く)裏の非常口からぬけ出した彼が、貯蔵庫の脇へ出たとたん、人の声がするので、すばやく物蔭へ身を隠した。
声は番士小屋のほうから、しだいにこっちへ近づいて来た。
「いったいどこへいらっしゃるんですか」
「うるさいな、黙って来ればいいんだ」
「だって寒うございますわ」
かよの声であった。
「なにが寒いものか、お互いに酔った躯で、夜気がひんやりとこころよいくらいではないか」
「酔っているのは太夫さまだけですわ」
「なにを云うか、知っているぞ」
二人はそこへ来、そして右のほうへ、もつれあいながら通り過ぎた。
男は初めの夜、荷駄といっしょに着いたあの身分ありげな武士であった。
――渡辺蔵人だな。
万三郎はそう思いながら、物蔭を伝って二人のあとをひそかに跟けていった。
男はかよの肩へ手をまわし凭れかかるような恰好で、足もとも危なく、よろめきながら歩いてゆく。かよは突然身をもがいた。
「なにをなさいますの」
「騒ぐなよ、――ちょっと手がすべっただけだ」