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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

八

徹之助はやさしく礼を述べてから、升屋のことを知っているか、と訊いた。

「はい、あまり詳しいことは存じません、まだ四五たびしかいったことがないんです、でも中のようすはあらまし知っています」

「石倉のある場所はどんなふうになっているか」

「ええと、――此処に母屋がこんなぐあいにありまして」

おちづが指で、畳に図取りをしようとするのを見て、つながいそいで硯箱と紙を持って来た。おちづは羞み笑いをして、

「あたしは字はだめなんです、読むことも書くこともできないんです」

「字は書かなくともいいの」

つなが微笑しながら云った。

「升屋の中のようすを、できるだけ間違えないように書いてみてちょうだい」

「筆なんて持つの生れて初めてだから」

おちづはこう云って、なるほど、いかにも妙な手つきで筆を持ち、墨をちょっと含ませて、こわごわ紙へ当てるのであった。

あまり太く線を引きすぎて、墨を滲ませたり、ぼとっと墨汁を落したり、幾たびか失敗したあとで、どうやら升屋の見取り図ができあがった。

「これが母屋、これが離れの数寄屋、これが石倉です」

徹之助は覗いて見ながら、

「こっちは道だな」

「はい、ずっと堀に沿っています、堀の向うは洲崎弁天です」