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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

さすがの休之助も、このときは黙って、なにか祈るように、暫く頭を垂れていた。

これよりまえ、――

半次とおちづは廊下のほうへぬけ出していた。二人はお互いを発見するとあっと口をあいたまま、すぐには声も出なかった。大きく眼をみはって、お互いに相手を茫然と見まもっていた。だがまもなく、心と心で呼びあうかのように、二人とも同時に立ちあがり、廊下へと出ていった。

「――ちい公」

「――半ちゃん」

廊下の隅までゆくと、そう呼びあいさま二人は抱き合った。

おちづは半次の躯に両手をまわし、半次はおちづの肩を抱いた。抱き合った瞬間、おちづは本能的な羞恥で、つと身を反らした。自分から抱きついたとたんに、自然とそうなった。まったく無意識な動作で、同時に全身が火のように熱くなり、からだがわなわなとふるえた。半次の手も不決断に迷った。

おちづの羞恥は彼には理解できなかったが、身を放そうとした動作が、彼をまごつかせ、肩へまわした手を、そのまま抱いていいものか放すべきかに戸惑いをした。

「よかったわね半ちゃん」

おちづはふるえ声で、半次の腕につかまりながら云った。

「きっと無事に帰って来ると思っていたけれど、でもずいぶん心配していたわよ」