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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

そして、そこでがまんが切れたのであろう、八重は両手で顔を押えながら泣きだした。

――やはり町人の娘だ。

徹之助は渋い顔をしてそっぽを向いた。

――武家の娘なら、人の見る前で泣いたりはしないだろう。

そう思った。そんなふうにでも思って自分を支えなければ、その場に居たたまれなかったのである。

「私は悔みは云わない」

やがて徹之助は云った。

「こなたの辛さはよくわかるし、悔みを云われて慰められるものでもあるまい、だが林は武士として立派に死んだのだ、天下の大変にも及ぶべき陰謀を、未然に潰すために、武士の本分をはたして死んだのだ」

八重は泣きながら頷いた。

「こう申しては無情かもしれぬが、彼は、百年息災に生きるよりも、もっと末永く生きたも同じことだ、――どうかそう思って、辛いではあろうが、諦めてくれ」

「はい、よく、わかりました」

「今後のことは、及ばずながらわれわれが相談相手になろう、あまり悲しんで躯に障ってはならない、また、――盃は交わさずとも、こなたも武士の妻になる筈であった、どうかみれんなまねをしないように」

こう云って、彼もまた耐えられなくなったのだろう、立ってその部屋から出ていった。