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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

猿橋

一

「この魚をなんだと思います」

兵馬が膳の上の焼魚を箸で押えながら訊いた。

万三郎は首をかしげた。

此処まで来る途中ずっと、これで弱らされたのである。兵馬は好奇心が強いのか、それとも無聊を慰めるためか眼につくものを片っ端から万三郎に訊くのである。

――この草はなんだか知っていますか。

――この木はなんだと思います。

――この花の名を云ってごらんなさい。

万三郎が知っているわけはなかった。

彼にはそういう知識はないし、興味をもったこともなかった。山川草木虫魚これといって知っているものはないのである。

「さあて、なんでしたかな」

彼は首をかしげて、さも考えるような恰好をする。

訊いている兵馬に対して、いきなり「知りません」では愛嬌がないからである。或る程度までは考えるふりをし、思いだそうとするふりをするのが、少なくとも(いっしょに旅をする者の)礼儀だと思うからであった。

「ええと、喉まで出て来ているんだが、なんという魚だったか」

「ほほう、知ってるんですか」

「ええ知ってたんですよ」

「喰べたことがあるんですね」

「あまり好きじゃなかったと思います」

兵馬はにこにこした。