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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

七

七

「石黒先生、――」

万三郎は声かぎり叫んだ。声かぎり叫びながら走った。

だがそのまま追い続けることはできなかった。

敵はすでにその大半を失っていたが、残った者たちはみな相当な腕達者で、しかも全部がそこを最期の場ときめ、そこで斬死にをする覚悟のようであった。

その数はおよそ四五十人とみえるが、誰一人として、脱出しようとか、生き延びようとか考えている者はないようにみえた。

走ってゆく万三郎の面前へ、また、左から、右から、そういう敵が襲いかかった。

「おやめなさい、むだですよ」

そのたびに彼は叫んだ。

「そんなことをしてどうなるんです、もうだめだということはわかってるでしょう、およしなさい、どうかよして下さい」

だがどの相手もきかなかった。

狂気のように斬ってかかり、逃げると追って来た。しかも適当にあしらえるようなものではなく、うっかりするとこっちがやられそうなので、万三郎も本気にならざるを得なかった。

彼はしだいに本気になった。

「心得た、さあ来い」

そんなふうに刀を合わせると、こんどは爽快といってもよいほどの闘志が湧いて来た。全身が軽くなり、手足は発条のように柔軟な弾力をもって、敵を選ばず相手になった。