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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

九

「もうたくさんです、それを云われるのが、なにより辛い、――どうかもう、もう、そのことは云わないで下さい」

半兵衛は眼をすぼめた。万三郎の顔がよく見えないらしい、言葉つきもやや舌がもつれるようであった。

「私はこれで満足です」

と半兵衛は続けた。

「人間には立直れるばあいと、どうしても立直ることの、できないばあいとある、私はよく考えたうえで、この途をとりました、師範として立直ることはできなかったが、――剣士としては、無神流の技を存分にふるい、存分に闘って倒れたのです。私はこれで、満足です、本当のところ、身も心もさっぱりと、洗い清めたような心持ですよ」

万三郎はうっと嗚咽した。

「泣いてくれるんですか、花田さん、――ああ、それは勿体ない、私のような人間のために、泣いてくれる人がある、などとは、想像もできなかった、――これで思い残すことは、一つもなしです、どうかお仕合せに」

「先生、泣いているのは私だけではない、もう一人いますよ」

万三郎はかよの手を取って、半兵衛の片方の手を握らせた。

「――そうか、かよさんか」

半兵衛は顔を歪めた。

「貴女には、詫びを云わなければならない、が、もうその必要もないでしょう、さあ」