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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

と万三郎は答えた。

「なんのぶっかけですか」

「わからねえな、ぶっかけといえばぶっかけだよ、この家はぶっかけを食わせるんだろう」

ほかに客が五六人いた。そのなかでぷっと失笑す者があった。小女もにやにやした。

「ぶっかけにも家はいろいろあるんです」

と小女が云った。

「鰯汁にけんちん鳥の叩きに深川、今日は蛤に葱まがあります、なにをあげますか」

万三郎はうっと云った。

そんなに種類があろうとは知らなかったし、小女の云うことが立板へ水でまるっきりわからない。おまけに相客が聞いているらしいので、うっかりするとまた笑われそうである。

「そんなことはわかってるよ」

万三郎はしらを切った。

「ええと、そんならその、あれだ、けんちん鳥の叩きというやつを貰おう」

やっぱり失敗だった。こんどは五六人いる相客のぜんぶが、いちどきにげらげら笑いだした。小女も前掛で口を押えて笑った。しようがあろうか、万三郎も笑ってみせた。するとみんなはもっと大声に笑いだし、なかの一人は自分の丼をひっくり返してしまった。

「けんちんと鳥の叩きとはべつなんです」

ようやくのことに小女が涙を拭きながら云った。