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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

三島は悲鳴をあげた。万三郎は半身になり、腰を充分に入れて、下手を思いきり捻った。云うまでもない、三島はみごとに投げとばされた。

躯が巨きいから、投げがきまるときれいである。遠巻きの群衆はどっと歓声をあげた。わっわっとはやしたてた。

「眼が見えねえ、眼が見えなくなった」

三島は地面に足をなげだしたまま、両手で頭を押えて泣き声をあげた。

「おらあ眼が見えねえ、禿の畜生、おれの頭を割りやがった」

禿はどこかへ逃げ去っていた。

信州も屁十もいなくなり、権あにいもずっと向う(二十間もあろう)に立って、片方の腕を抱えたまま、怯えたような眼でこっちを見ていた。

「お逃げなせえその人」

群衆の中から叫ぶ者があった。

「役人がやって来ますぜ」

万三郎は横っとびにいって道具を取った。役人が来なくっても退散の汐どきである、袋を肩に掛け、割り竹の拾い箸を掴んで、脱走しようとする眼の前へ、

「そんなに慌てることはございませんわ、万三郎さま、お待ちあそばせ」

こう云って、立ち塞がる女があった。名を呼ばれたので、少なからずぎょっとして眼をあげるなり、万三郎は、

「あっ」といった。

「――つなさん」