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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
四
「――いいだろう」
相手は微笑した。すると白い歯が見えた。
「――名は刀で教えたいが、今はあちらで御用があるそうだ、麹町七丁目に道場を持っていたことのある」
「石黒半兵衛どのか」
万三郎は思わずそう叫んだ。
四
――石黒半兵衛。
明和から安永の末へかけて、彼の名はかなり弘く知られ、麹町七丁目の道場には、ひところ三百人あまりの門人が数えられた。
流名は「無神流」といった。
聞いたことのない名だし、むろん独創のものだろうが、「飛魚」という突の手に秘術があった。下段から真向へ突きあげる猛烈なもので、かつて他流試合を申込んだ者のうち、二人は不具になり、一人は死んだことがあった。彼が殆んど無反の刀を使うのは、この突の一手に必要だからだろう、――それだけの実力をもっていて、彼は酒癖が悪かった。
酒癖が悪いというより、むしろ酒乱に近かった。天明と改元された安永十年の二月、新吉原の花菱丁字という妓楼で乱酔し、男の雇人を三人と妓を一人傷つけ、その場から逃亡して、まったく所在を昏ましたのであった。
「そうですか、無神流の石黒さんでしたか」
万三郎は相手を見た。
「私はまだ少年でしたが、貴方の飛魚という秘手はよく噂に聞きましたよ、尋常な人ではないと思ったが、意外ですね」