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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

小降りになった雨の中を、半丁ばかり走ってゆくと、駕籠の提灯が見えた。そこで走っている足をゆるめたがゆるめるのと同時に、うしろからいきなりだっと突きとばされた。

――しまった。

万三郎は激しくのめって、水溜りの中へ転倒した。偶然ではない、誰かうしろから追って来て突きとばしたのである。駕籠のあとを守っていた人間があって、跟けると思ったのが逆に跟けられたのだ。

――やられるぞ。

彼はそう直感し、転倒したまま、地面の上で躯を三転した。すばやく転げて、抜打ちに備えようとすると、

「無礼者め」

と喚く声がした。見ると侍が一人、ぬっとそこに立って、闇の中からこちらを睨んでいた。

「こんな暗がりをむやみに走るやつがあるか、気をつけろばか者」

万三郎は黙っていた。

「本来なら一刀両断というところだが、今夜は気持よく酔っているから勘弁してやる、有難く思ってさっさと帰れ、――ういっ、人間の命は大切なもんだ。大事にしろよ、ばか者」

こう罵りながらひょろひょろした足どりで、駕籠のいったほうへ去っていった。万三郎は道の上に片手をついたまま、そのうしろ姿をじっと見まもっていた。

紅雀