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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

「たぶんそうでございましょう」

つなが冷やかに云った。

「わたくしも万一のときのことを申しただけでございますわ」

万三郎もつい云い返した。

「貴女の油断のないのにはいつも感心しますよ」

「三郎、――」

と休之助が睨みつけた。万三郎は立っていって、渡辺蔵人を縛った繩のぐあいを見、それから高い声で独り言を云った。

「危ないのはむしろこっちのほうだ、ひとつ念のためにもうひと繩からめあげるか」

それには誰も答えなかったが、万三郎はもう一本繩を出して来て、蔵人を床の上へあげ、厳重すぎるくらい柱へ縛りつけた。

「気の毒だが長くても夜明けまでだ」

と彼は蔵人に云った。

「これまでずいぶん好いおもいをして来たらしいから、その代償と思って諦めるんだな、断わっておくが、――もし逃げようとでもすると、番に残るものが遠慮をしないぜ、じつに断乎たるものなんだから、わかったな」

「三郎、――」

とまた休之助が叱りつけた。

軽く夜食をとり、身支度をして、休之助と万三郎と斧田の三人は、まもなく観音谷へ向って出立した。出てゆく三人にも、送り出すつなにも、むしろ「出陣」といいたい感じであった。斧田の云ったように、三人がぜんぶ死ぬとも思えないが、みんなが無事に帰れるとも思えなかった。