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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

――これが別れになるかもしれない。

万三郎はそう思って、戸口のところで振返り、つなの眼を見た。

つなも彼の眼を見あげた。

屋根をかすめておちる月の光りで、彼女の顔はかなりはっきり見えた。おそらく冷淡な、すました顔をしているだろう、と思ったが、月の光りのなかで、つなの眼はくいいるように彼を見あげ、今にもなにか云いたげに唇をふるわせた。

それは情感のあふれるような表情であった。

「ではいって来ます」

万三郎はたちまち嬉しくなり、まるでおどりあがるような声で云った。

「私はたやすくは死にませんよ、きっと帰って来ます、どうか安心して待っていて下さい、きっと帰って来ますからね」

三郎、と休之助の呼ぶ声がした。万三郎は首をすくめて出ていった。つなが誘われるように微笑し、かれらのあとから叫んだ。

「どうぞ御武運めでたく、――」

八

伝次たちに与えた計画は、意外なほどうまくいった。

谷尻の木戸の脇、南へ二十本めの柵が抜いてあり、三人はそこから中へ入った。通路とは反対の、貯蔵庫の裏をぬけてゆき、万三郎が、若者たちの丸太小屋の、非常口を叩いた。

開き戸をあけたのは、伝次であった。