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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

六

万三郎は壕の縁にとびついた。

「気をつけなさい」

兵馬が叫んだ。

「すぐ上に敵がいますよ」

だが万三郎は答えなかった。崩れやすく脆い壕の縁に腕をかけ、幾たびも失敗しながら、しかしすばやく上へ這いあがった。

そこは広い平坦な台地で、すぐ向うに、五棟の丸太小屋が燃えており、その焔のためにあたりは真昼のように明るかったし、また、煽りつける火気が息苦しいほど熱く感じられた。

台地の到る処で、敵味方が、押しつ返しつ斬りむすんでいた。

万三郎は刀を抜き、乱闘の群のなかに、その人を捜した。

その人はすぐみつかった。升屋のときと同じように、覆面をした黒装束で三人の敵と刃を合わせていた。

「あっ、石黒先生」

万三郎はわれ知らずそう叫びながら、まっしぐらにそっちへ駆けつけた。

その声を聞いたのかどうか、怪剣士は大きく跳躍しながら、敵の一人を斬って、向うへさっと身を隠した。

「――先生」

もういちど叫んで、追おうとする万三郎の右手から、敵の一人が槍をふるって突っかけた。万三郎は危うく躰を捻り、のめってゆく相手には眼もくれず、そのまま怪剣士のあとを追った。

――止めなければならない。