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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

三

一つはこの薪山の下を北へゆき、他の一つは東のほう下館へ向って延びていた。どっちへゆくかと注意していると、出て来た人と馬は、下館の方向へゆくようであった。

つなはそっちを見た。

夕映えの色もうすれた東の空に、筑波山の高い嶺と、加波山の稜線がくっきりと黒く見えた。つなは笹藪から道へあがり、人馬の列のほうへ近づいていった。

馬は二頭、人は十人ばかり。馬も人も荷物を負っていた。提灯は「山五」の印のあるものが一つだけ(それは古木家の紋であるが)なので、人数は詳しくはわからなかった。それで知らず知らず、つなは行列との間隔を縮めたが、うしろからしんがりが来るのに気づかなかった。

古木邸から四五丁のところで、とつぜん二人の侍がおどりかかり、つなは短刀を抜くいとまもなく、捕えられてしまった。

「――なんという油断だろう」

つなは今も口惜しそうに舌打ちをするのであった。

三

この土蔵は古木邸の中にある。

捉まった夜からすぐ、つなはこの部屋に押籠められた。家人には内密らしい、もう六十ばかりになる老女が、一人でつなの世話をした。武家の奥にでも仕えているような、品のいい老女であるが、用事のほか口は殆んどきかないし、話しかけても決して返辞はしなかった。