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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

虎穴の章

一

「しっかり頼むぞ」

休之助は去っていった。

そこは弁天谷に臨んだ断崖の上である。そのあたりは一帯が花崗岩質だから、松や雑木林のある処のほかは、闇夜でも仄白く地形をみわけることができた。

いま、万三郎の見おろしている谷の、十二三町も下のほうから、五つ六つ提灯の火が、ゆらゆらと揺れながらひどく緩慢に登ってくるのが見えた。

虎穴の章

一

伝次という若者は、明くる夜の十時ころに、同じ忍び姿の若者を一人伴れて、かれらの小屋へ戻って来た。

荷駄の見張りには斧田がゆき、ちょうど休之助と万三郎がいたときで、休之助は(よほど心配していたのだろう)いかにもほっとしたようすをみせた。

「疑われるようなことはなかったか」

と万三郎が訊いた。伝次はいくらか自慢そうに、そんな心配はなかったと云い、伴れの若者をひきあわせた。

覆面をぬいだのを見ると二十三四、年は少し若いが、躯恰好は万三郎とつり合っていた。彼は雨引村の人間で名は秀といい、村相撲では小結だそうである。

「この伝次は関脇で、二人で宇都宮まで相撲にいったこともありますが、旦那にはころっといかれたそうで、やっぱりお武家さんにはかなわねえと云いあって来たです」