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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
お世話に成る人は皆な親だと思えば可いよ」
「二人ともまだ幼少うございますから、お出掛になるなら今の中の方が可いかも知れません」
こう言う愛子はあまりに岸本が義雄兄の家族を頼み過ぎていることを匂わせた。何故、彼が根岸へ相談もなしに二人の子供を義雄兄に托して行くのか。それは愛子にも言えないことであった。
「君ちゃんのことは何分よろしく願います」
と岸本は末の女の児のことを根岸の姪に頼んだ。
高輪には岸本は十日ばかり暮した。節子や子供等と一緒に居ることも早や一日ぎりに成った。出発前の混雑した心持の中で、夕飯前の時を見つけて、岸本は独り屋外へ歩きに出た。彼の足は近くにある岡の方へ向いた。ずっと以前に卒業した学校の建築物のある方へ向いた。二十二年の月日はそこを出た一人の卒業生を変えたばかりでなく、以前の学校をも変えた。緩慢な地勢に沿うて岡の上の方から学校の表門の方へ弧線を描いている一筋の径だけは往時に変らなかったが、門の側に住む小使の家の窓は無かった。岸本はその門を入って一筋の径を上って行って見た。チャペルの方で鳴る鐘を聞きながらよく足立や菅と一緒に通った親しみのある古い講堂はもう無かった。