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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百十四

何とも知れない戦慄が身体へ伝わって来る度に、岸本は自分ながら顔色の蒼ざめ変るのを覚えた。そればかりでなく、遠廻しに触られても痛いような自分の弱点を自分からそこへ持出そうとしている平素にない岸本の態度が、相手の義雄に不審を抱かせるように成った。

義雄は、ついぞこの事のために死を決したこともあるなぞと言出したためしの無い岸本の顔を不思議そうに眺めて、

「何しろ俺は、学問に於いてはお前に及ばないかも知れないが、しかし人間として見たらお前なぞよりも遙かに高いところにあるつもりだ。そりゃ俺の方がずっと上手だ。何処を押せばどういう音が出るぐらいの活きた人生哲学は可成修業をつんでる。何かお前も思案に困ることがあったら、俺の許へ相談に来いよ。お前のように独りで考え込んでしまって、下手なことをしちゃ不可ぜ――そんなら、今日はこれで帰る」

と言って義雄は起ちかけた。

岸本は手を揉み揉み兄を見送ろうとして一緒に次の部屋まで出た。

「もう時刻ですから、昼食でも進げると可いんですが――」

と言う岸本の方を義雄は未だ全快とまでは行かない眼で幾度となくよく見るようにして、「こりゃ愛宕下の方も変だわい、ここにも何か間違いでも起りそうだわい」