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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
百二十七
けれども自分はしっかりした、心強いものを持っている。台湾へ行くように成ろうと朝鮮へ行くように成ろうとそんなことのために動かされないと書いてよこした。「いつでも心の中では御一緒ですものね」とも書いてよこした。
これを読むと、岸本はいたいたしい、いらいらとした位置に節子を置いて考えるにも耐えないような気がして来た。どうかして今の境遇から離れさせたい。その意味から彼は寧ろ節子の台湾行の一日も早く事実となるのを望んでいた。
百二十七
遠いところへ節子が行ってしまう前に、岸本は一度彼女に逢いたいと思う心を起さないではなかった。告白後の節子が殆ど幽閉の身も同様で、「何処へも出ちゃ不可」と父から厳しく言い渡されて、渋谷の姉の家へ独りで行くことすらも禁じられているのを岸本は知っていた。その中でも、もし彼の方で節子を見たいと思えば、いかにでもして逢うぐらいの機会が見出せないでもなかった。しかし彼は無理にそんな機会を見つけてまでも、こっそり逢いに行くような場合でないと思った。それよりも彼は明るいところで互に顔の合せられる時まで待とうとした。「今後お目に掛れるのは何時のことか、何年の後か」