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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

四十

節子は僅かにそれだけのことを言って、俯向いてしまった。

何となく岸本の眼には以前の節子とは別の人かと思われるほどの節子が見えて来た。学校を出てまだ間も無かったような娘らしい人のかわりに、今はずっと姉さんらしい調子で物を言う人が居た。なんにも世の中のことを思い知らなかったような人のかわりに、今はいろいろな悲しみ苦みを通って来た人が居た。どうかすると岸本は兄や嫂なぞの認めもせず、また認めようともしないものをこの節子に見つけることが出来るように思って来た。三年前に比べると、それだけもう二人の位置が変って来ていた。

四十

仮の書斎とした部屋の押入には岸本が自分の身体を養うつもりで買って来た葡萄酒が入れてあった。仏蘭西産としてあって、旅で飲み慣れたように価もそう安くは求められない。彼はその壜を押入から取出して、

「こいつは自分で飲むつもりだったが、まあそっちへ進げる。下手な薬なぞよりは反ってこの方が好い。毎日すこしずつお上り」

と言って節子の前に置いた。

「節ちゃんはそんなに酷く瘠せたようにも思われないが――」と復た彼は言葉を継いだ。「それでも前から比べるとずっと瘠せたかねえ。