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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
二十三
その方針でこそ、兄や嫂にも安心を与え、同時に長い間の自分の苦悩を忘れることが出来ようかと考えた。
二十三
「兄さん、これは貴方に進げるつもりで持って来ました」
義雄が宿屋の方から帰った頃、岸本は旅の鞄から取出して置いたものを記念として兄にも贈った。それは巴里のサン・ミッシェルの並木街あたりを往来する人達の小脇に挾まれるような、書籍や書類などを納れるための実用向の手鞄であった。
「や。好いものをくれるナ。こいつは貰って置こう」
と義雄は機嫌が好かった。
岸本の帰国を聞いて戦時の巴里の消息を尋ねに来る新聞雑誌の記者、その他旧馴染の客なぞで、一しきり家の内はごたごたした後であった。まだ岸本は長い旅から持越した疲労をどうすることも出来なかった。神戸へ上陸するからその日まで殆ど彼は休みなしと言っても可いくらいに自分を待受けていてくれた国の方のものに触れ続けた。東京へ帰って来て見ると、あの京都の宿でせめて半日なりとも寝転んで来て好かったとさえ思うくらいであった。
その疲労を制えながら、岸本は奥の部屋の方で自分を呼ぶ兄を見に行った。
「捨吉。まあ坐れ。今はいろいろ話すことがある」