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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
四十三
岸本はその窓際で、少年時代から知合っている画家とあわただしい別れの言葉を交した。
「岸本さん、もうすこし顔をお出しなすって下さい。今写真を撮りますから」
という声が新聞記者の一団の方から起った。岸本は出したくない顔を余儀なく窓の外へ出した。
「どうぞ、もうすこしお出しなすって下さい。それでは写真がよく写りません」
パッと光る写真器の光の中に、岸本は恥の多い顔を曝した。
「泉ちゃん、繁ちゃん――左様なら」
と岸本が婆やに連れられている二人の子供の顔を見ているうちに、汽車は動き出した。岸本は黙って歩廊に立つ人々の前に頭をさげた。
「大変な見送りだね。こんなに人の来てくれるようなことはわれわれの一生にそうたんと無い。まあ西洋へでも行く時か、お葬式の時ぐらいのものだね」
一緒に乗込んだ加賀町は高級な官吏らしい調子で言って、窓際に立ちながら岸本の方を見た。全く、岸本に取っては生きた屍の葬式が来たにも等しかった。
四十三
到頭岸本は幼い子供等を残して置いて東京を離れた。元園町、加賀町、森川町、その他の友人は品川まで彼を見送った。代々木の友人は別れを惜んで、ともかくも鎌倉まで一緒に汽車で行こうと言出した。