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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百三十一

「姉さんの来てあげるのが、そんなに貴方がたには嬉しいの」こう言いながら泉太や繁に取りまかれる時が、一番輝子らしい時であった。

「もう君ちゃん達も学校から帰って来る時でしょうか。それじゃ、今少し御邪魔させて頂いて」

と言って話頭を変えようとする輝子を前に置いて、岸本は満洲の方に居る輝子の夫の噂や台湾から上京するという民助兄の噂などに返った。

「ことしの夏は俺も暑い思いをした。殆んど誰にも逢わずに懺悔を書いて暮した。でも梅雨が短くて、それだけは助かったね。まるでこの一夏は、熱い汗と冷い汗とを流しつづけたようなものだね」

と岸本は輝子に言って見せた。

百三十一

到頭十月の初までも待った。岸本は節子からの手紙を読む度に、今日は台湾の方から何とか言って来るか、明日は何とか言って来るか、とそればかりを待ち暮した。一月は一月より気まずい思いをして谷中の家に暮すように成って行った節子の様子が岸本には思いやられた。彼女は岸本との交通を断たれてから、自活の道をも断たれてしまった。その中で折角延びて来た生命の芽を育てて行くということも容易ではないと思いやられた。もし、自分が側に附いていたら。