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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
百三
ことが出来れば仕合せである」などという手紙を寄せて励ましてくれたのもあの書記のお母さんであったことを思い出した。「この悲しい戦争が一日も早く終りを告げることを心から願っている」という意味の言葉で結んだセエブル出の手紙があの老婦人から貰った最後の消息であったことを思い出した。
知らない国の人が亡くなったとも思われないような力落しを感じながら、岸本は独りでサン・テチエンヌの古い寺院の方へ歩いて行った。
百三
丁度死者のための大きな弥撒が行われているところであった。ヴィエンヌ河の岸に添うて高く岡の上に立つその寺院は、ゴシック風の古い石の建築からして岸本の好ましく思うところで、まるで樹と樹の枝を交叉した林の中へでも入って行くような内部の構造まで彼には親しみのあるものと成っていた。よく彼はそこへ腰掛けに来た。その日もあの亡くなった老婦人の生涯を偲ぼうためばかりでなく、しばらくその静かな建築物の中で自分のたましいを預けて行くことを楽みにした。あだかも樹蔭に身を休めて行こうとする長途の旅人のごとくに。
大理石の水盤で手を濡らし十字架のしるしを胸の上に描きながらその日の儀式に参列しようとする婦人の連は幾組となく岸本の側を通った。