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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

六十四

それを聞くと遽かに故国も遠くなった。彼はそろそろ外国生活の無聊がやって来たことを感じた。

苦難はもとより彼の心に期するところであった。どんなにでもして彼は耐えがたい無聊と戦わねば成らなかった。そして心の飄泊を続けねば成らなかった。

六十四

復活祭も近づいて来ていた。東京の留守宅へ戻って行ってからの節子は折ある毎に泉太や繁のことを書いて、それに彼女の境遇を訴えてよこした。岸本はあの片田舎の家の方から品川の停車場まで帰って来て、そこで迎えの嫂と一緒に成ったという時の彼女を想いやることも出来た。彼女の母にも姉の輝子にも男の子の生れている高輪の家へもう一度帰って行った時の彼女を想いやることも出来た。多くの知人や親戚から祝わるる姉の子供に比べて、誰一人顧るものもない彼女に生れた子供こそその実この世に幸福なものであると言ってよこした彼女の女らしい負惜みを思いやることも出来た。あの事があってからの父は別の人かと思われるほど彼女に優しく、叔父さんから父宛に来た手紙もこっそり彼女の机の上に置いてくれるほどの人になったと言うような、とかく母に対して気まずい思いをしているらしい彼女を遠く想いやることも出来た。