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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
百五
入院の日は嫂は籠で、輝子と節子とが俥で随いて行ったということを、岸本は後になって聞いた。附属の看護婦も同じ郷里の方の生れの人とやらで、病人も大いに安心したらしいということをも聞いた。
ある日、岸本は三人の子供を学校へ送り出して置いて、独りで自分の部屋の机に対って居ると、思い掛けない時に節子が訪ねて来た。彼女は例のように病院へ行くと言って家を出た足を愛宕下の方へ向けて、一寸岸本を見に寄ったとのことであった。彼女はもう幾晩となく碌に休まないという看護の疲労や、母の病気の心配や、それらのものに抵抗しようとして気を張っていなければ成らないような心から遁れて、ほんの僅かの息を吐く時を岸本の側へ見つけに来たという様子であった。
「俺はお前のことを心配していた……そんなに幾晩も休まなかったら、後で弱るぜ」
と岸本は言って、激しい底疲れのために苦しそうにしている節子の顔を見まもった。どうかすると彼女の蒼ざめた頬には薄紅い血の色が上って、それがまた彼女の表情をいじらしく鋭くした。
「でも、病院へ通うように成ってから、お前も余程楽になったろう――」と復た岸本はいたわるように言って見た。