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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
三十五
こうしたことを胸に浮べながら寺の庫裏の前まで引返して行った頃に、岸本は自分の側へ来て訊く子供の声に気がついた。
「父さん、今日はこれッきり?」
と泉太は物足らないような顔付をして言った。
「これッきり? これがお墓参りじゃないか」と岸本は笑いながら言って見せた。「今日はお前、遊びに来たんじゃ無いじゃないか」
三十五
しばらく寺の庫裏にも時を送って、やがて境内の敷石づたいに門の外へ出た頃は、八月の日の光がもう大久保の通りへ強く射して来ていた。
眼に見えない混雑は岸本の行く先にあった。何故かと言うに、こんな墓参りなぞに節子を連れて来たからで。岸本は黙って歩いた。節子も黙って歩いた。二人の沈黙を破るものは唯子供等の間に起る快活な笑声であった。岸本は節子や子供等を休ませるために往きに節子が寄って花を買った家の附近を探した。その辺には旗の出ている小さな氷店ぐらいしか見当らなかったが、そんな店も、新開の町も、以前岸本が住んだ頃の大久保には無いものであった。
泉太や繁は父と一緒にその店先に腰掛けて、氷の削られる涼しそうな音を聞くだけでも満足した。
「一ちゃん、氷が来ました」