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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

八

どうかすると、子供に熱が出る。夜中にお医者さまの家を叩き起しに行ったこともある。あの時分は、叔父さんもろくろく寝なかった……」

「そうでしたろうね」と節子はそれを眼で言わせた。

「あの時分から見ると、余程これでも楽に成った方だよ。もう少しの辛抱だろうと思うね」

「繁ちゃんが学校へ行くようにでも成ればねえ」と節子は婆やの方を見て言った。

「どうかまあ、宜しくお願い申します」

こう岸本は言って、節子と婆やの前に手をついてお辞儀した。

八

下座敷には箪笥も、茶戸棚も、長火鉢も、子供等の母親が生きていた日と殆んど同じように置いてあった。岸本が初めて園子と世帯を持った頃からある記念の八角形の古い柱時計も同じ位置に掛って、真鍮の振子が同じように動いていた。園子の時代と変っているのは壁の色ぐらいのものであった。一面に子供のいたずら書きした煤けた壁が、淡黄色の明るい壁と塗りかえられたぐらいのものであった。その夏岸本は節子に、節子の姉に、泉太に、繁まで例の河岸へ誘って行って、そこから家中のものを小舟に乗せ、船宿の子息をも連れて一緒に水の上へ出たことがあった。それからというものは、「父さん、お舟――父さん、お舟――」