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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

二十

と年嵩な方が引取って笑った。

「しかし、私は何時までも先生にそうしていて頂きたいと思います」と復た髪の薄い方の女中が言った。「先生だけはどうかして堕落させたくないと思います」

「私だって弱い人間ですよ」と岸本が言った。

「いえ、手前共のようなところへもこうして御贔屓にしていらしって下さるのが、何よりでございます。そりゃもう御察しいたしております。歌の一つも聞いて見ようという御心持は手前共にもよく分っております……」

「よくそれでも御辛抱が続くと思いますよ。そんなにしていらしって、先生はお寂しか有りませんか……奥さんもお迎えなさらず……」

元園町は盃を手にしてさも心地よさそうに皆の話を聞いていたが、急に岸本の方を強く見て言った。

「岸本君の独りで居るのは、今だに僕には疑問です」

岸本は人知れず溜息を吐いた。

二十

「僕は友人としての岸本君を尊敬してはいますが」とその時、元園町は酒の上で岸本を叱るように言った。「一体、この男は馬鹿です」

「ヨウヨウ」と髪の薄い女中は手を打って笑った。「元園町の先生の十八番が出ましたね」

「あの『馬鹿』が出るようでなくッちゃ、元園町の先生は好い御心持に御酔いなさらない」