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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
二
二
青年が去った後の河岸には、二人の心を結び着けた柳並木も枯々としていた。岸本の心は静かではなかった。三年近い岸本の独身は決して彼の心を静かにさせては置かなかった。「お前はどうするつもりだ。何時までお前はそうして独りで暮しているつもりだ。お前の沈黙、お前の労苦には一体何の意味があるのだ。お前の独身は人の噂にまで上っているではないか」こう他から言われることがあっても、彼は何と言って答えて可いかを知らなかった。ある時は彼は北海道の曠野に立つという寂しいトラピストの修道院に自分の部屋を譬えて見たこともある。先ず自己の墓を築いて置いて粗衣粗食で激しく労働しつつ無言の行をやるというあの修道院の内の僧侶達に自分の身を譬えて見たこともある。「自分はもう考えまいと思うけれども、どうしても考えずにはいられない」と言った人もあったとやら。岸本が矢張それだ。唯彼は考えつづけて来た。
河岸の船宿の前には石垣の近くに寄せて繋いである三四艘の小舟も見えた。岸本はつくづく澱み果てた自分の生活の恐ろしさから遁れようとして、二夏ばかり熱心に小舟を漕いで見たこともあった。その夏と、その前の年の夏と。