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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
十八
見違えるほど大きくなった繁はそう言って声を掛けられたのを何と思ったのか、日除の掛った車の方をもよく見ないで、
「父さんはまだ帰らないよ」
と言い捨てながら、何か嬉しそうな声を揚げて急に家の方へ駆出して行った。そこからはもう留守宅の格子戸の見えるほど近かった。
十八
忍びがたいのを忍んで岸本が家の前に停めさせた車から降りた時、軒下の壁の破れや短い竹垣の荒れ朽ちたのが先ず彼の眼についた。荷物を卸す音なぞを聞きつけて誰よりも先に入口の格子戸のところへ飛んで出て来たのは嫂であった。嫂は内側から格子戸を一ぱいに開けてくれた。
「やあ、お帰りかね」
と言って義雄兄は玄関先に立った。続いて兄の子供も、繁もそこへ集った。岸本は旅姿のまま入口の庭に立って一度に皆と顔を合せた。祖母さんの後方に立つ節子をも見た。彼は自分で自分の顔色の苦しく変るのを覚えた。
やがて岸本は家の人達に迎え入れられた。順に一人ずつ挨拶があった。岸本は兄の前にも頭をさげ、嫂の前にも頭をさげた。
「捨さん、お帰りでございましたか。あなたもまあ御無事で」
と静かな調子で言う祖母さんの前へも行って、岸本は挨拶した。