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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
七十九
この手が悪くなかろうものなら……私はお嫁に行かなくちゃ成らなかったかも知れませんよ。余程この手にはお礼を言わなくちゃ成りませんね」
「しかし節ちゃん、お前はそれでほんとに可いのかい――これから先、そうして独りで立って行かれるのかい」
「そんなに信用がありませんかねえ――」
この節子の力を入れて言った言葉は岸本に安心を与えた。
七十九
墓地で送った時は短かった。しかしその夕方まで家の方で節子と一緒に成った間にも勝って忘れがたい印象を岸本に与えた。それから二三日経つと彼は谷中からの手紙を受取った。それは義雄兄の意を受けて節子の代筆した金の相談に関した手紙ではあったが、彼女は別に鉛筆で書きつけた歌を同封してよこした。
「くれなゐの椿の花はおくつきに二人あゆみしみちにも散りぬ
君もなく我が身もなくて魂二つ静かにはるのひかりのなかに
青葉もる春のひかりはやはらかく苔むせる石のうへに落ちけり
手をとりて静かにあゆむ石段やはるかぜゆるくおくれ毛をふく」
これを読んで岸本は墓地での印象が彼女の上にも深かったことを知った。
その頃からの節子は顔の白いものなぞもなるべく薄く目立たないようにつくろうとする人に成って行った。