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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百二十一

節子がこれを書いてよこしたのは六月の下旬だ。どうせ一度はこういう時が来る、岸本は節子のことを思いやった。そこから本当の進路が開ける、彼女が心のどん底を父に打明けただけでも、それだけでも既に彼女は明るみへ出られたのだとも思いやった。岸本はつくづく「創作」の力を思うという彼女を想像し、誰一人理解するもののない彼女の周囲を想像し、親の心に背いても生きて出ようとするものの涙の多い朝晩を想像した。

百二十一

「お前は恐ろしいことをしてくれた。黙って置きさえすれば最早知れずに済むことではないか。黙って置きさえすればお前は好い親戚として通り、好い叔父さんとして通っているではないか」

こういう声が来て絶えず岸本の耳の辺にささやいた。

真実の曝露ということは弟の方から進んで受けようとした勘当ぐらいの程度に止まらないで、兄の方から宣告でも下したような義絶にまで導いた。それはまた、親の計画を齟齬させ、娘を親から反かせ、混雑と狼狽とを親戚の間に蒔き散らした。岸本が自分の生活を根から覆そうとして掛ったことは、今更眼に見えない牢屋なぞを出られて堪るものかというものをも、嘘を嘘として置いて貰わないことには周囲で迷惑だというものをも、そういうものまでも一緒に覆してしまった。