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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百二十五

岸本が待受けた夜明は、何もそう遠いところから白んで来るでもなく、自分の直ぐ足許から開けて行きそうに見えた。血から解き放され、肉から解き放されて行くことを感知する度に、暗かった彼の心も次第に明るい方へ、明るい方へと出て行く思いをした。

百二十五

七月の末まで待つうちに、節子の前途に開けかかった進路のいとぐちが朧気ながら岸本には見えて来た。台湾の民助兄でも東京に家を持っていると節子を預けたいと言った義雄兄の口吻と、「吾娘はわれに於いて処分するの覚悟を有す」と書いてよこしたような義雄兄の文句と、その後の節子からの手紙で父はしきりに台湾の伯父さんの上京を促しているということなどを綜め合せて見ると、そこに岸本は義雄兄の意嚮を読んだ。兄弟の縁を絶ってまでも節子に岸本のことを思い切らせようとした義雄兄が、反対に節子の告白を聞いて、黙ってそのままにして置く気遣いもなかった。けれども、岸本は今々どうすることも出来ないでいるものの本当の意味の解決を彼女と自分との告白の結果に求めようとした。所詮彼女は一足飛びに自身の択んだ方針へ進んで行かれる人ではなかった。

「ああそうだ――いずれ節ちゃんは台湾へでもやられるように成る――」