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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
五十三
彼女は長い長い間いろいろ御世話さまに成ったという礼なぞを述べ、引越は昨日でほんとに好かった、そちらでも矢張その御噂をしてくれたことと思うと書いてよこした。物哀しいあの空の色、寒い風に吹かれながら上野の公園側を歩いて来た時は心細かったと書いてよこした。ここへ着いてからは父の知人が手伝いの夫婦をよこしてくれて、自分等は御客さまのようなものであったと書いてよこした。昨夕はまた手伝いに来てくれたそのお婆さんに連れられて久し振で明るい町を歩いて見た、その人が帰ってしまってからも母と二人で遅くまで話したが、種々な思いで胸が一ぱいに成ってよく寝られなかったと書いてよこした。彼女はまた弟達の様子をも書き、今寄留届を認めたところだから一寸その序にこの知らせをする、すこし家が片付いたら御返しものかたがたそのうちに御機嫌伺いにまいりたいとも書いてよこした。
五十三
最早、節子は岸本の側に居なかった。彼女の母親も、彼女の弟達も居なかった。何となく下谷の住居の方へ嫂を見送ったことを一くぎりとして、あの嫂が祖母さんや一郎を引連れ、郷里の方から出て来てくれた日以来の家庭の小歴史に、そこに一つの線でも引いたような区劃が岸本には見えて来た。