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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

十五

彼は悄れた節子を見て、取返しのつかないような結果に成ったことを聞いて、初めて羞じることを知ったその自分の心根を羞じた。彼は節子の両親の忿怒の前に、自分を持って行って考えて見た。彼も早や四十二歳であった。頭を掻いてきまりの悪い思をすれば、何事も若いに免じて詫の叶うような年頃とは違っていた。とても彼は名古屋の方に行っている兄の義雄に、また郷里の方にある嫂に、合せ得られるような顔は無かった。

十五

嵐は到頭やって来た。彼自身の部屋をトラピストの修道院に譬え、彼自身を修道院の内の僧侶に譬えた岸本のところへ。しかも半年ばかり前まで節子の姉が妹と一緒に居て割合に賑かに暮した頃には夢にだも岸本の思わなかったような形で。

多くの場合に岸本は女性に冷淡であった。彼が一箇の傍観者として種々な誘惑に対って来たというのも、それは無理に自分を制えようとしたからでもなく、むしろ女性を軽蔑するような彼の性分から来ていた。一生を通して女性の崇拝家であったような亡くなった甥の太一に比べると、彼は余程違った性分に生れついていた。その岸本が別に多くの女の中から択んだでも何でもない自分の姪と一緒に苦しまねば成らないような位置に立たせられて行った。