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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

九十

髪のある僧侶として自分を考えるには、彼の胸に躍る血潮はあまりに生々しく、彼の歩いて来た道はあまりに罪が深かった。こうした珠数でも胸の上に懸けて幻の栖所のように今の生活を思うような心と、夜も寐られぬほど血の涌くような心とが、彼には殆ど同時にあった。

九十

離座敷から母屋の方へ通う廊下つづきには庭の見透しの好いところがあった。しばらく子供等はその涼しい風の来るところに集まって遊んでいたが、やがて三人とも揃って愛宕山の方へ出掛けて行った。庭にある大きな青桐の方から聞えて来る蝉の鳴声は、遽に子供の部屋をひっそりとさせた。

岸本は泉太の机の上を片付けて、そこへ節子を誘った。その机の上に自分で書溜めて置いたものを載せて見せた。彼が節子に読んで見て貰おうと思ったのは手紙がわりに彼女に宛てて自分の胸に浮んで来たことを順序もなく書きつけたものだ。いそがしいのにこんなことを書いて僅に自ら慰めるとか、滝のように汗を流して働いた後で復た書きつけるとか、そんな言葉を添えたものもある。一枚の紙に書いたのもある。僅な紙の片の端に書いたのもある。それを集めて節子の前に置いて見ると可成な嵩があった。