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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
百三十八
そこから天文台の建築物は見えないまでも近い。何となく巴里の天文台の近くに三年も暮して見た旅窓を思い出させる。そこには二階がある。神田川の川口に近い町中で七年も臥たり起きたりした以前の小楼を思い出させる。子供等はめずらしがって、家の周囲にある木の多い小路や、谷底の町の方へ続いた坂道などを走り廻った。
引越して三日目に、岸本は節子から手紙と小包とを受取った。小包の中からは彼女が谷中の方で手植にしたという秋海棠の根が四つ出て来た。岸本は彼女から来た手紙を二階の新しい書斎で読んで見た。
「取急ぎしたためます。この手紙は前後もなくしたためますから、そのおつもりで御覧下さい。未だ愛宕下の方へお伺いします頃、祖母さんの鼈甲のかんざしの頂いたのがありまして、それを束髪のに直して貰うように頼んで置きましたが、そのままに成っております。あれは私にはもう用のないものでございます。失礼ですがあれを記念に差上げたいと思いますけれど、いろいろ都合もございますので、もし上野辺へいらっしゃるような時がございましたら、どうぞお受取り下さい。小間物店のあるところは別紙にしたためて置きました。