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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

十

それから先の旅程は倫敦に着いて見た上で定めることにした。何と言っても戦時の旅であったからで。

救いの船にでも乗るようにして、岸本は三人の連と一緒に汽車に移った。間もなく動いて行く車の窓から、彼は遠くサクレ・カアルの高塔に日の映るのを望んだ。あだかもあの岡の上に立つ古い石造の寺院までが彼の帰国を見送ってくれるかのように。それが最後に彼の望んだ巴里であった。

十

岸本はセエヌ河口にあたるアーヴルまで動いた。仏国、下セエヌ州にあるというその港までは、巴里から汽車で一日要った。そこで仏蘭西の土地を離れて、彼は牧野等と共に夜の汽船で英吉利海峡を越した。

旅行も困難な時であった。白耳義仮政府の所在地として聞えたアーヴルでの税関が既にもう第一の関所で、容易には人を通さなかった上に、あの港から海峡を越してしまうまでの間がまた旅するものの難場に当っていた。ひしひしと迫って来る物凄い海上の闇にまぎれて進んで行く船の中で、何時襲いかかるかも知れない敵を待受けるような不安な念慮は、おちおち岸本を眠らせなかった。その数日前独逸潜航艇のために撃沈された汽船のあるという噂は一層その不安を深くさせた。