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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
百三十四
民助は弟の反省を促そうとするような調子で、今まで誰にも話したことの無いという父の生涯に隠れたものを岸本の前に展げて見せた。民助に言わせると、あれほど道徳をやかましく言った父でも誘惑には勝てなかったような隠れた行為があって、それがまた同族の間に起って来た出来事の一つであったという。
「俺は今までこんなことを口に出したことも無い」と民助は弟を前に置いて、最早この世に居ない父の道徳上の欠陥が末子の岸本にまで伝わり遺っているのを悲むかのような口調で言った。
「そういうお父さんの側に附けて置いては不可――どうしても捨吉は他へ修業に出さなけりゃ不可――その考えが俺にあったから、お父さんに勧めて貴様を東京へよこすことにした。その親の子だ。余程考えてよく行って貰わんけりゃ成らんというのは、そこだ。まあ俺なぞから見ると、貴様のように一婦人に迷うなんてことが、てんで可笑しい」
「そう兄さんのように言っても困ります」と岸本は答えた。「ここまで出て来るには私だってもいろいろなところを通って来た揚句です。一婦人とは言いますけれど、私はそう軽く視ていません。もしそんなことを言ったら、一生互に苦労する細君だっても一婦人じゃありませんか」