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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
三十六
氷店の直ぐ外まで射して来ている日あたりを眺めて、余計に彼は休息を思うようになった。
帰路に向う子供等を送るために、岸本はそこまで一緒に歩くことにした。彼は往きよりも帰りの節子のことを気遣った。まぶしい日光は彼でさえ耐え難かった。彼は節子をいたわりいたわり往きと同じ新開の町を新宿の近くまでも送って行った。時には彼の方から、不自由な境涯にある節子の要求を聞いて見ようとして、一緒に歩きながら話しかけるような場合でも、節子ははかばかしい答えさえもしなかった。彼女は唯無言のまま、過ぐる三年の間のことを思出し顔に暑い日の映った道をひろって行った。
「どうかして、この人は救えないものかなあ」
その心で岸本は別れて行く節子を見送った。長いこと彼は一つところに立って、三人の子供の後姿や動いて行く節子の薄色の洋傘を見まもっていた。
三十六
泉太や繁の暑中休暇は、それから一月ばかり続いた。その間には大暑がやって来た。耐えがたい疲労が今度は本当に岸本の身に襲いかかって来た。もう一切を放擲させる程の力で。高輪の家の蒸暑い夏の夜なぞは彼は奥の部屋の畳の上に倒れて死んだように成っていることもあった。