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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

次第に岸本はそうした手紙を貰うことも少くなった。ぱったり消息も絶えてしまった。

「あの人もどうしたろう」

と岸本は河岸を歩きながら自分で自分に言って見た。

曾てその青年から貰った葉書の中に、「あの柳並木のかげには石がございましょう」と書いてあった文句が妙に岸本の頭に残っていた。岸本はそれらしい石の側に立って、浅草橋の下の方から寒そうに流れて来る掘割の水を眺めながら、十八九ばかりに成ろうかとも思われる年頃の未知の青年を胸に描いて見た。曾て頬へ触れるまでに低く垂れ下った枝葉の青い香を嗅いだ時は何故とも知らぬ懐かしさに胸を踴らせたというその青年を胸に描いて見た。曾てその石に腰を掛け、膝の上に頬杖という形で、岸本がそこを歩く時のことをさまざまに想像したというその青年を胸に描いて見た。

これほど若々しい心を寄せられた自分は、堪え難いような哀愁を訴えられた自分は、互いに手紙を書きかわすというだけでも何等かの力に思われた自分は――そこまで考えて行った時は、岸本はその石の側にも立っていられなかった。

例の柳並木――そこにはもう青年は来なくなったらしい。以前と同じように歩きに来る岸本だけが残った。