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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

七十一

にわかに部屋の内は賑かな笑声で満たされるように成った。その画家は岸本の方をも見て、

「岸本君は巴里へ来ていながら、ほんとにまだ異人の肌も知らないんですか――話せないねえ」

何を言っても憎めないようなその快活な調子は一同を笑わせた。

「年は取りたくないものだ」

こう岡が言出したので、復た皆そりかえって笑った。

七十一

「岸本君は何をそんなに溜息を吐いてるんです」

と画家の中に言出したものが有った。その調子がいかにも可笑しかったので、復た皆くすくすやり出した。

「僕は岸本君のためにシャンパンを抜こうと思って待ち構えているんだけれど、何時に成ったら飲めることやら見当がつかない」

と岸本の前に腰掛けていた画家が親しげな調子で言って笑った。この画家なぞは割合に老けて見えたが、年を聞くと驚くほど若かった。青年の美術家同志がこうして珈琲店に集っていても、美術に関する話はめったに出なかった。気質を異にし流派を異にする人達は互いに専門的な話頭に触れることを避けようとしていた。話好きな岡が岸本と二人で絵画や彫刻に就いて語り合うほどのことも、皆の前では持出されなかった。やがて画家の一人が給仕を呼んだ。